フォトニック結晶では光の波長スケールの人工構造により、光の存在が許されないフォトニックバ ンドギャップが発現する。この原理を磁性体に応用し、スピン波(マグノン)の存在が許されないマ グノニックバンドギャップが現れる磁性人工構造はマグノニック結晶と呼ばれる。マグノニック結晶 を利用したスピン波導波路は応用の観点から興味深い。エピタキシャル成長したイットリウム鉄ガー ネット(YIG) 単結晶薄膜をマグノニック結晶の作製に用いると、スピン波の伝播距離が長くなる反面、 コストが高くなる。そこで本研究は比較的容易で低コストである有機金属分解法(MOD 法)によって作 製した YIG多結晶薄膜を用いて、二次元マグノニック結晶を実現することを目的としている。さらに マグノニック結晶に準周期構造を導入し、スピン波をトポロジカルに保護することにより、多結晶性 に起因する短いスピン波伝播距離を補償することを試みる。 MOD法は、金属の有機化合物を主成分とした溶液を塗布し、乾燥、焼成処理を行うことで薄膜を形 成する手法である。今回我々はMOD法を用いてシリコン基板上に YIG薄膜を作製した。大気中 1000°C にて焼成した試料の X線回折測定で YIGの回折パターンが得られた。これに伴い振動試料型磁力計で は自発磁化が確認された。よって焼成温度 1000°Cで多結晶 YIG が得られることが明らかとなった。 Fig.1(a)に MOD 法を用いた準周期マグノニック結晶の作製工程を示す。シリコン基板にレジスト (GL2000-11)をスピンコートし、電子線リソグラフィ(EBL)で直径 4μm のドットパターンを描画した。 Fig.1(b)は EBL 後の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。黒い点はレジストのドットに対応している。 その上に、MOD 法によって YIG を成膜し、 結晶化させることで空孔構造を持つ二次元マ グノニック結晶を作製することを試みた。 1000°Cの焼成で YIG を成膜した後の SEM 画 像[Fig.1(c)]では、空孔ではなく YIG 膜内に残 ったレジストのドットパターンが見られた。 しかしレジストが残留している部分は YIGと は透磁率が異なるので、マグノニック結晶と して機能することが期待される。 [1] V. D. Bessonov et al., Physical Review B 91, 104421 (2015). Fig.1 Fabrication process of magnonic crystals (a) and SEM images of resist dot patterns (b) and YIG film after annealing (c). 第63回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 (2016 東京工業大学 大岡山キャンパス) 19p-P1-24