水溶液中に固定した電極間に高電圧パルスを印加すると,放電プラズマを発生させることがで きる。本プラズマ内には,溶液中の水分子が分解することで発生した,強い還元力を持つ水素ラ ジカルや強い酸化力を持つ水酸基ラジカルが豊富に含まれ,効率的な還元・酸化反応場としての 応用が期待される。これまでの研究において,このプラズマを用いて有機物分解や殺菌,ナノ材 料合成が可能であることが実証されている[1]。さらに本プラズマは,水溶液中に溶解させる物質 や電極として用いる物質を変えることで,内部の化学組成をアレンジすることが可能であること, 高温のプラズマ中で進行する反応を周辺の低温の水溶液によって急冷クエンチすることが可能で あること,という独自の特徴を併せ持つ新規反応場としての応用が期待される。 プラズマを反応場としてデザインし,効率的に応用するには,プラズマ内に含まれるラジカル の同定とその温度計測が必須である。ところが,本水溶液中放電プラズマについてそのような情 報はほとんど得られていない。特に,プラズマ内は熱平衡状態に達しているとは限らず,化学種 によって温度が異なる可能性があるため,化学種ごとに温度計測を行う必要がある。さらに,本 研究対象のプラズマはマイクロ秒パルス電圧印加によって発生させており,電圧印加に伴う粒子 温度の時間揺らぎに関する情報も,粒子の温度を決定する要因同定や,プラズマ反応場内の温度 制御を行う上で欠かせない。 これらの計測上必要な性質を満たす方法として,我々は独自に設計した放電セルと倒立型顕微 鏡を組み合わせ,さらに検出器としてストリークカメラを用いた時間分解発光分光装置を開発し た[2,3]。本プラズマの還元活性と酸化活性をそれぞれ担う水素ラジカルと水酸基ラジカルの励起 温度を計測した結果,それぞれ 5500 K,4000 – 5000 Kと見積もられた。したがって,本プラズマ がほぼ熱平衡状態に達していることを実験的に示すことができた。さらに,それぞれの温度の時 間変化を観測した結果,プラズマ内の電子数密度が大きいと温度が増加することが分かった。こ の結果はラジカルが,印加電圧によって加速された荷電粒子と衝突することでエネルギーを受け 取っており,衝突頻度が増えることで温度が増加することを表していると考えられる。 このように,時間分解発光分光によってプラズマ診断を効果的に行うことができることを示し た。講演ではさらに炭素材料合成への応用を企図して電極に黒鉛を用いた際に,プラズマ内で発 生する炭素由来のラジカルの温度計測についても議論する。 [1] O. Takai, Pure Appl. Chem. 80, 2003 (2008). [2] H. Yui, Y. Someya, Y. Kusama, K. Kanno, H. Takakuwa, Bunseki Kagaku 62, 19 (2013). [3] M. Banno, K. Kanno, Y. Someya, H. Yui, Jpn. J. Appl. Phys. 54, 066101 (2015). 第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 (2016 朱鷺メッセ (新潟県新潟市)) 14p-A22-7