火山噴火の地表現象のダイナミクスには,噴煙や火砕流への大気の取り込みで生じる浮力やマグマの冷却が重要な役 割を果たしている.我々は,噴霧流や高浸透性マグマへの大気の混合過程を実際の噴出物から定量化する手法を開発し ている.噴火に際して,マグマは地下の還元的環境から地表の高酸化(高f O2)環境へと急激に上昇し,その過程でマ グマに含まれる硫化鉱物は酸化する.その反応は高温(マグマの温度)下で数十秒から数十時間という,噴火の継続時 間に対応した時間スケールで進行するため,噴火ダイナミクスを反映している可能性がある.Matsumoto and Nakamura (2012)は,桜島大正噴火のプリニー式噴火降下軽石中に,磁硫鉄鉱(Po)から磁鉄鉱(Mt)への酸化途中の組織を見出 し記載した.噴火様式が異なれば,火道浅部~地表でのマグマと大気との混合や冷却の過程にも違いが生じると予想され るため,本研究ではさらに大正噴火の火砕成溶岩(安井ほか,2007)と溢流溶岩中での反応進行度を調べ,酸化反応時 間の見積りを行った. Poにしばしば見られる酸化組織は反射顕微鏡観察とラマン分光分析からMt と Hm(赤鉄鉱)と同定した.Poとそ の酸化組織について,反応進行度を定量化するため,各粒子に占める鉱物相の面積割合を各噴出物あたり約 30粒子測定 した.軽石では,一粒子中に PoとMt あるいは Po・Mt・Hm三相が存在するのが特徴で,火砕成溶岩では Poがほとん ど残存せず完全に Hm化している粒子が大多数であり,溢流溶岩では Poのみ,Po・Mt,Mt・Hm,Hmのみといった複 数の段階の粒子が存在するものの,軽石のように三相同時には存在しなかった.また,Mt・Hm中の Tiの EPMAによる X線元素マッピングを行ったところ,軽石と火砕成溶岩試料ではMt・Hmともに Tiを含有しなかったが,溢流溶岩では Mt に Ti の拡散が認められた. このような,噴火様式による Po粒子の酸化組織の相違は,「高温・高酸化維持時間」に対する「到達f O2」で整理でき る.「到達f O2」は (A) 噴火開始前のマグマ (B)Poと Mt の平衡 (C)Mtと Hmの平衡 (D)大気f O2 の目盛を与えら れる.これらのf O2は,桜島大正噴火の温度範囲 950~1050°Cにおいて(A)10−7.5~10−9.0 bar(B)10−6.9~10−8.3 bar (C)10−4.7~10−6.2 bar(Matsumoto and Nakamura, 2012; Huebner and Sato, 1970; Eugster and Wones, 1962)(D)10 −0.7 bar (地表の酸素分圧)と求められる.一方,「高温・高酸化維持時間」には,(i)PoからMtへの酸化反応時間 (ii)Mt から Hm への酸化反応時間 (iii)Mt 中の Tiの拡散時間 をもとに見積った目盛を与えられる.すると,プリニー式噴火軽石の到達