薄膜材料において薄膜エピタキシー技術を用いることで、単結晶と同等の結晶性をもつエピタ キシャル薄膜を得るばかりでなく、熱力学的準安定相を得ることも可能である。したがって、半 導体に対して、析出相の生成なしに熱力学的固溶限を超えた不純物ドーピングを行うことができ る。そのような薄膜材料では新しい機能が発現する場合がある。たとえば、TiO2に Co を高々10% ドープすると最高で約 600 K のキュリー温度の強磁性を示し、電界効果による室温強磁性のスイ ッチングができる[1]。この異常に高いキュリー温度の発現メカニズムとして長年の議論があり、 強磁性金属の析出の可能性は払拭された。一方で酸素欠損を介した交換相互作用の可能性が提案 されたが、電子顕微鏡では、そのような局所構造の直接観察はなされていない[2]。 蛍光 X 線ホログラフィーでは、今回のようなドープ系材料のドーパント付近の 3 次元局所構造 を観測することができる。我々は、蛍光 X 線ホログラフィーを用いて、常磁性を示す Co 低ドー プ TiO2(ルチル構造)と強磁性を示す Co 高ドープ TiO2の Co 周辺の局所構造の観察を行った。 その結果、前者では Co 周辺も母体と同じルチル構造を形成しているが、後者では Co 周辺はルチ ル構造と異なり酸素の配位数が少ないサブオキサイド構造を形成していることがわかった[3]。 このサブオキサイド構造は他の手法で観測されておらず、ドープ系材料の局所構造観察に関する 蛍光 X 線ホログラフィーの強力さを示している。まだ、このサブオキサイド構造と高温強磁性の 間の直接の関連性は明らかでないが、局所的なサブオキサイド構造が巨視的な物性・機能の発現 に関わる可能性を示唆する興味深い結果であり、新材料設計にもつながる可能性がある。講演で は、蛍光 X 線ホログラフィーによる他の薄膜材料の観測結果についても時間の許す限り紹介する。