極域電離圏の電子密度構造は、磁気圏・電離圏結合過程の結果として生じるプラズマ対流による輸送過程と、太陽紫外 線ならびに磁気圏由来の高エネルギー電子の降込みに起因した電離生成過程、および解離再結合をはじめとする消滅過 程とのバランスにより、多様な時間・空間変動を示すことが明らかとなっている。本研究では、あけぼの (EXOS-D)衛 星搭載サウンダーの観測データに基づいて、電離圏トラフの電子密度および電子、イオン温度の高度分布を調べた。 あけぼの衛星には、電離圏電子密度の高度プロファイル遠隔探査を目的として Plasma Wave detectors and Sounder (PWS)が搭載されている。そのサブシステムである Stimulated Plasma Wave experiments (SPW) は、0.3 MHzから 11.4 MHzまで周波数を掃引しながらパルス波を送信して、電離圏からのエコーならびに衛星周辺で生じるプラズマ共鳴を計 測する [Oya et al., 1990] 。SPWによって 32秒毎に取得されるイオノグラムから、エコーの周波数と遅延時間を読み取り、 電離圏各高度でこれらに合致するような電磁波の群速度を求めることによって、電離圏プラズマ密度の高度分布が得ら れる。本研究では特に EISCATレーダーのあるトロムセー (69.58° N、19.23° E)上空付近を通過する軌道で得られたイ オノグラムに着目して解析を行った。その結果、電子密度が局所的に 50 %以上減少する電離圏トラフを 2例同定した。 1995年 2月 28日に(65° N、15° E)で観測された例をイベント1、1995年 3月 1日に(70° N、35° E)で観測され た例をイベント2と呼ぶ。同時刻の EISCAT UHFレーダーの観測データから下部電離圏では電子密度が減少していない ことが確認された。 次に本研究では、同定された 2例のイベントについて解析を行い、イオノグラムから電子密度の高度プロファイル を導出し、スケールハイトを算出した。解析の結果、密度減少領域では周囲と比べてスケールハイトが 20%前後小さく なっていることが示された。両極性拡散による拡散平衡を仮定して 500km高度でのイオンと電子の温度の和を見積もる と、イベント1ではトラフ外では 5730 Kであるのに対しトラフ内では 3730 K、イベント2ではトラフ外では 3290 Kで あるのに対しトラフ内では 2940 Kに減少していた。電離圏トラフにおける電子密度の減少を生じさせる物理過程として は、過去の研究では温度上昇による解離再結合の促進が指摘されている [e.g., Williams and Jain, 1986] 。一方,本研究で 同定したイベントでは温度はむしろ減少しており、典型的な電離圏トラフとは異なる形成過程の寄与が示唆される。但 しイベント1に関しては、トラフが観測された地方時において IRI-2012モデルから得られる電離圏温度が約 3000 Kで あることから、解離再結合が促進され、電子密度減少領域が現れた可能性が指摘される。本発表では、上記の同定され たイベントとその解析結果を示すと共にスケールハイトの相違が温度以外の要因(イオン組成等)もしくは温度の時間 変化(地磁気活動等)に依存している可能性についても議論する。