1.はじめに 水質汚濁の調査法としては,従 来採水が容易な河川や暗渠に流出した水を採 水し分析を行っていた.しかし,土壌浸透水の 水質と河川水の水質には濃度に差があること が分かり,土壌浸透水を直接採取し,モニタリ ングすることを考えた.安価で容易に扱える土 壌浸透水直接採水装置として,グラスファイバ ー採水装置の開発を行い,土壌浸透水直接採取 から流域における水物質循環の解明を試みた. 2.試験地及び実験の方法 採水装置 グラスファイバー溶質の吸着がほとんど行 われず,腐食が起こりにくい.グラスファイバ ーの毛管力を利用すると吸引装置として働き, サクションを外部からかけることなく,不飽和 土壌から土壌水を吸引する.土壌を掘り起こす ことを避けるため,採水装置は土壌側面から挿 し込む構造とし,また,真に浸透水を採水する ため,Fig.1 のように限られた面積で採水を行 うことにした.グラスファイバーは排水位置に よるサクションをかけるため,土壌に挿してい ない方の末端を採水部分の高さから 50cm の位 置に垂らしておく.毛管力で 3kPa ほどの吸引 圧が働くことを確認し,この合計が採水装置の サクションと考えた. 野外実験 島根県宍道町内にある馬鞍山のスギ・ヒノキ 人工林の山林において,実際の植生がある自然 状態の土壌で採水が行われるか実験を行った. 間伐などのある程度の管理が行われ,下層植生 が存在する西側斜面と,粗放的な管理しかされ ておらず,下層植生が貧弱化している南側斜面 の近接する 2 斜面において実験を行った.両斜 面において 3ヶ所ずつ合計 6ヶ所に装置を設置 し,採水を行った.また,それぞれの斜面の下 部に設置してある堰から渓流水の採水を行っ た.2 週間おきに採水し,採取した液はイオン クロマトグラフィー(PIA-1000:島津製作所 製)を利用して,陰イオン濃度を測定した.グ ラスファイバーによる採水量と比較するため, 気象観測ステーションを西側・南側それぞれの 斜面に設置して,山林内の降水量を計測した. さらに林外雨,林内雨,樹幹流の採水を行い, 含まれている陰イオン濃度の測定を行ない,山 林生態系における各部分の溶存物質濃度の垂 直変化をみた. 3.実験結果と考察 土壌の浸透性 渓流水では毎回同程度の陰イオン濃度が確 認され,土壌中での滞留時間が長く,深層を通 過し土壌中の化学的反応を十分に受けている ことが最も影響していると考えられた.ここで, Fig.2 の 224 日目(7 月 24 日)の水質に注目す ると,ClとSO4の濃度が雨水のそれに近づく ように変動していることが確認できる.224 日 目の土壌浸透水の陰イオン濃度の部分を拡大 したグラフを図 3 に示す. SO4は西側斜面の 全ての採水箇所において検出されたが,南側斜 面では全く検出されなかった.これは土壌の浸 透特性が異なることにより,南側斜面では浸透 特性が弱く,降雨が十分に土壌中に浸透しなか ったと推測される.Cl-は土壌への吸着が弱く, 少ない降雨の浸透でも土壌深くまで影響を及 ぼし,SO4はClに比べると土壌への吸着が行 われやすいため,浸透量が少ないと土壌に吸着 されやすいと考えられる.そのため,SO4が検 出された西側斜面は土壌の浸透特性が高く, *島根大学,**九州大学農学部演習林,***鳥取大学乾燥地研究センター *Shimane University, **Research Institute of Kyusyu University Forest, ***Arid Land Research Center, Tottori University キーワード:土壌浸透水,水文循環,人工林 Stainless Tube (5×120mm) Lab. experiment (7×950mm)In-situ experiment