結晶シリコン基板の多くはキャスト法で成長され、急冷過程での熱応力の一部が冷却後のイン ゴット中に歪みとして残留する。この残留歪みは、インゴットの分割やスライスによって一部は 緩和されるものの、一部は基板中に残留し、セル製造過程での基板の割れやセル性能低下の一因 となる。結晶シリコン中の残留歪みの測定手法には、X 線回折法、ラマン分光法、光弾性法など があり、このうち我々は、装置の構造が簡便で多点測定しやすい光弾性法に着目し、独自の走査 型装置 SIRP を開発して、多結晶シリコン基板の残留歪みイメージングを行ってきた [1,2]。SIRP では試料サイズが 200mm角に制約されるため、大型結晶は複数のブロックに分割した後、縦横に スライスした薄板試料を評価していた。しかし、分割面に垂直な残留歪み成分が一部緩和される ため、分割前の残留歪み分布を得ることは困難であった。 本研究では、最近開発したイメージング型光弾性装置 IRIP [3] を改造し、試料の搬送と部分評 価を繰り返すことによって、大型結晶シリコンをブロック分割せずに残留歪み分布を得ることを 目的とした。SIRP では 100mm角の領域を走査するのに数時間を要したが、カメラ系に基づく IRIP は数分で済むので、搬送と部分評価を繰り返しても現実的な時間に収まる。IRIP に試料の搬送機 構を組み込み、最終イメージの合成機能をソフトウェアで実現した。搬送距離は最大約 600mmで、 商用級インゴットを分割せず切り出した試料も評価できる。実験炉でキャスト成長された典型的 な多結晶シリコンインゴットの縦断面試料(約 440×170×3mm)を評価したところ、るつぼ境界の 3 辺と結晶の上辺および中心部に残留歪みが集中する分布を示した。ブロック分割していれば、中 心部の高歪み領域が分割され歪み緩和が発生すると考えられる。さらに、結晶内部では、結晶粒 の形状や配置を反映した局所的な分布も含まれていた。これらの結果から、ブロック分割による 歪み緩和を回避しつつ、大型結晶全体の残留歪み分布を得ることができたと考えられる。 【謝辞】本研究は JSPS 科研費 25390068 の助成を受けて実施された。また、シリコン基板をご 提供頂きました第一電通株式会社の皆様に深く感謝致します.