有機半導体材料を用いた電子デバイスの動作機構 を解明し性能向上をはかる上で、有機材料のバル ク・薄膜・界面の電子構造を解明することが重要で ある。占有状態の電子構造解析法としては従来から、 光電子分光が広く用いられてきた。特にイオン化エ ネルギーの決定など、価電子状態の探索には、紫外 光電子分光(UPS)や光電子収量分光(PYS)[1]な どが広く利用され、薄膜や界面電子構造の解明が進 められてきた[2]。 これまでは、HOMO準位を主な対象として電子構 造研究が進められてきたが、実際の素子特性を理解 するには、HOMO—LUMO ギャップ内に存在するギ ャップ準位やトラップ準位の解明も必要とされてい る。トラップはキャリア伝導に直接影響するし、太 陽電池などにおいては、ギャップ内準位が擬フェル ミ準位を左右することで結果として開放端電位など の素子特性に大きな影響を及ぼす。このようなギャ ップ内の微少準位については、従来は、インピーダ ンス分光をはじめとする電気特性測定法を利用し、 何らかのモデルを仮定することで間接的に状態密度 が決定されてきたのが現状で、何らかの手法で直接 的に決定することが望まれてきた。 通常の UPS測定では、光源が完全な単色光でない ために、迷光によるバックグランドが混入し、検出 限界は高々100分の1程度となり、微弱な準位を 計測することはできなかった。最近、上野・解良ら は光源を改良するなどの工夫により、大幅に検出感 度を高めた高感度紫外光電子分光が可能であること を示した[3]。我々のグループは、PYS装置の高感度 化を進めながら、迷光成分を極限までカットした波 長可変単色光源を用いて、さらなる高感度化を進め てきた。本講演では、以下のようなトピックに関し て、我々の高感度光電子分光、高感度光電子収量分 光に関する最近の成果を報告する。 (1) 「波長可変低迷光光源を用いた高感度3D— UPSによる ppmオーダーの状態密度計測」 我々は PYS用の極低迷光光源を用いて、高感度低 エネルギーUPSスペクトルを入射光のエネルギーの 関数として計測し(入射光エネルギー、光電子の運 動エネルギー、光電子放出強度の3つを決定するた めここでは3Dと呼ぶ)、有機半導体薄膜の占有準位 の状態密度をppmまたはそれを上回る感度で計測 する手法を提案している。この手法では、入射波長 を変えながらスペクトル変化を追跡するので、電子 エネルギー分析器のゴーストシグナルの効果が実質 的に無視できるため、容易に高感度化が実現出来る。 実際には、p型ポリマーとして用いられている PTB 7薄膜に対して、7.7-3eV の範囲の入射光に対して UPSを測定し、それらをつなぎ合わせることで、p pmオーダーの状態密度計測に成功した例を報告す る。 (2)「有機 EL材料のエレクレット膜に捕獲された 負イオンの計測」 有機 EL 材料では、しばしば蒸着するだけで緩や かに配向分極してエレクトレットを形成することが 知られている。多くの場合、膜の表面側が正に帯電 するため、光キャリアなどを供給すると表面に負イ オンが捕獲されると考えられる。このような負イオ ンはクーロン引力で安定化されているので、電子注 入の実効的な障壁の低下をもたらし、素子特性向上 に間接的に寄与していると推定される。我々は、Alq3 を始めとするエレクトレット材料について実際に負 イオンからの光電子放出を計測することに成功した。 高感度測定のおかげで、可視域の光でも光電子放出 が生じることを見出した[4]。この現象は種々の有機 EL材料についても観測され、有機 EL素子中の空準 位をプローブする手法としても期待される。 講演では、この他有機界面の測定例[5]なども交 えて報告する予定である。 References [1] "Photoelectron Yield Spectroscopy for Organic Materials and Interfaces", H.Ishii et al, Chap. 8 (pp. 131 -155) in Electronic processes in organic electronics: Bridging nanostructure, electronic states and device properties, eds. by H. Ishii, K. Kudo, T. Nakayama, N. Ueno, Springer (2015). [2] H. Ishii, K. Sugiyama, E. Ito, and K. Seki, Adv. Mater., 11(1999)605. [3] T. Sueyoshi et al., APL, 95(2009)183303. [4] H. Kinjo et al, APEX 9(2016) 021601-1~4. [5] Y. Nakayama et al, Adv. Ener. Mater., 4(7) (2014) 1301354-1~9. 第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 (2016 朱鷺メッセ (新潟県新潟市)) 13p-B7-7