スピントロニクス研究で最も重要な役割を果たすのは、スピン角運動量の流れであるスピン流 である。スピンホール効果はそのスピン流を、磁場や強磁性体を用いずに生成する手段として知 られており、電流からスピン流に変換する効率(つまりスピンホール角)をできるだけ大きくす ることが、将来のスピントロニクス素子への応用という観点からも必須の課題である。 最近 Cornell 大のグループが、タンタル[1]や白金[2]のスピンホール効果を用いた微小磁化反転 を実現させている。しかし彼らがこの磁化反転から算出したスピンホール角の値は、我々のグル ープが過去にスピン吸収法[3]から決定した値に比べて大きく異なる。この違いの要因の 1 つは、 スピン拡散長の見積もりにあると彼らは指摘しており[4]、確かに白金の場合には彼らが算出した スピン拡散長は我々の値に比べて約 7 倍小さい。非磁性体のスピン拡散長を正確に求めることは、 正しいスピンホール角の算出につながるだけでなく、スピンホール効果を用いた次世代の低消費 電力素子開発の指標にもなるため、大変重要である。そこで我々はこれまでの手法とは全く異な り、強磁性体を一切使用せずにスピン拡散長を求めることができる弱反局在効果に着目した[5]。 本講演ではまず、弱反局在効果がどのようなものであるかを説明し、いくつか具体的な例を挙 げながら、弱反局在で得られるスピン軌道長(LSO)と、面内スピンバルブ構造で測定されるスピン 拡散長(Ls)を比較する。実はこの 2 つの長さはこれまで全く別のものとして考えられることが多か ったが、我々は弱反局在とスピン吸収法の 2 つの実験手法を用いて、金、銀、銅、白金、そして 銅を母体とした合金の LSO と Ls を測定した結果、2 つの長さがほぼ同等であり、その比は等方的 なフェルミ面を仮定した時に得られる理論値 LSO/Ls = √3/2 に近いことを示す(図 1 参照)。またな ぜ Cornell 大のグループのスピン拡散長が短いのか、その理由は未だはっきりしていないが、いく つか可能性を言及する予定である。 [1] L. Liu et al., Science 336, 555 (2012). [2] L. Liu et al., PRL 109, 096602 (2012). [3] M. Morota et al., PRB 83, 174405 (2011). [4] L. Liu et al., arXiv:1111.3702. [5] Y. Niimi et al., PRL 110, 016805 (2013).