[Roles of cerebral cortex in control of masticatory movements].

  • Yuki Nakamura
  • Published 1999 in
    Kokubyo Gakkai zasshi. The Journal of the…
咀嚼運動は,歩 行運動 とならんで哺乳類の最 も日常的 にみられる リズ ミカルな運動である。 どちらも学習に よって修得 され る随意運動であ り,大 脳皮質がこれらの 運動の コントロールに関与 していることは想像 に難 くな い。 咀嚼運動は,食 性に依存 して適応制御されている運動 であ り,実 際の咀嚼運動パタンは動物種や食性に応 じて 多彩であるが,リ ズミカルな運動であるという基本的特 徴 を共有する。咀嚼運動 をコン トロールする神経機構に 関する現代の概念によれば,咀 嚼運動の リズ ミカルな基 本的パ タンは脳幹の特定のニューロン集団によって形成 される運動司令によって出現 し,こ のパタンが末梢から の感覚情報によって調節されて,口 腔内の食物の性状に 適応 した咀嚼運動の多彩なパ タンが出現する。すなわち, 末梢か らの求心性インパルスの関与なしに中枢で形成 さ れる運動司令によって リズミカルな基本的パタンをもつ 咀嚼運動が出現 し,こ の運動 自体 によって刺激 され る 顎 ・口腔 ・顔面領域の感覚受容器からの運動感覚情報 と, 口腔内の食物の性状に関する感覚情報 とが中枢に送られ て両者が比較 され,遂 行中の咀嚼運動が食物の性状に適 す るように,運 動 司令が調節されると考えられている1)。 このような概念は,咀 嚼運動のパタン形成に関す る神経 生理学的研究によって確立 された。 脳機能の解析に用いられる神経生理学的手法は,3種 類に大別 される。第一は刺激法である。対象 とす る脳の 領域に電気刺激あるいは薬物 による化学的刺激 を加 え て,そ の部位のニュー ロンを人工的に興奮 させ,そ れに よって出現する機能 を手掛か りとして,脳 のその部位の 機能を解析す る方法である。最近,ヒ トで頭皮上か らの 非侵襲的磁気刺激法 も用いられている。第二は破壊法で ある。対象とする脳の領域を破壊 して,その部位のニュー ロン活動を人工的に停止 させ ,そ れによって脱落する機 能を検索することによって,そ の領域の役割 を解析する 手法である。破壊には,対 象とする領域 を機械的(切 断, 摘除)あ るいは熱的(電 気凝固)に 不可逆的に破壊する 方法 と,そ の領域の冷却あるいは麻酔薬の局所的注入に よる可逆的破壊法 とがある。第三は,ニ ューロン活動の 記録法である。動物のある機能遂行時に,そ の機能の何 らかのパ ラメータ と相 関を もつニューロン活動 を同定 し,特 定の機能遂行に関する対象 とする脳の部位の役割 を解析する手法である。 これには,単 一ニューロンの電 気的活動の細胞外あるいは細胞内記録あるいはそれに対 応す る光学的活動の記録法 と,ニ ュー ロン群の電気的活 動を記録する脳波記録法,ニ ューロン群の電気的活動に 伴って発生する磁界を計測する脳磁界計測法(脳 磁図) などがある。さらに,最 近爆発的に盛んになったヒトに おける非侵襲的な記録法 としての,陽 電子放射断層撮影 法(positron emission tomography,PET)や,機 能的 磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging,fMRI)な ども,こ の記録法に属す る手法である。 Armstrong(1986)2)は,歩 行運動に関する大脳皮質運 動野の制御様式 を以下の2つ に分けている。一つは,歩 行運動の開始 と停止や歩行速度のような,運 動の全般的 制御である。 もう一つは,特 定の環境条件に運動 を適合 *東京医科歯科 大学名誉教授